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技術の話が多め

いつか人工知能が私たちの子孫の命を救ってくれる日がくる

■3.11

毎年、この時期になるとよく売れると聞いた本があります。吉村昭の『三陸海岸大津波』です。

三陸海岸大津波 (文春文庫)

文藝春秋 (2012-09-20)

この本は7年前の震災を題材にした本ではありません。明治29年に三陸沖で起きたマグニチュード8を越える地震とそれによって三陸海岸を襲った大津波や、昭和8年の大津波、チリ地震津波、そしてその時その場にいた人々について書かれたノンフィクションです。

最初に発行されたのは1970年とのことで…なんと約50年前!しかし、そこに書かれた内容はまるで東日本大震災の時の話を見聞きしていかのように錯覚するほどです。

 

■世代が変わると失われるモノ

7年前のあの時間と空気を「経験」した我々はいつまでもあの日のことを忘れることはないでしょう。大きな地震があれば真っ先に津波を警戒します。しかし、明治29年の大津波を経験した人もきっと同じことを思ったはずです。

知識として地震や津波の被害を啓蒙し続けることは、未来の被害を少しでも減らすという意味では有効です。

しかし、次世代の人間にどんなに教育しても、「あの日のことを忘れないで」と言い続けても、1000年後に向けてもメッセージが残るように石碑を建てたとしても、いつかあの日の出来事は『知識としての理解』になってしまいます。

7年前、多くの人々はテレビを通してあの時間を、あの瞬間を経験しています。あの時感じた単純な恐怖とも不安とも違う、なんとも複雑で表現しずらい『感情』は、書籍や映像では完全には伝えきれないまま、今までがそうであったのと同じく、残念ながら代替わりと共に消えてなくなってしまうものなのです。

『知識としての理解』だけでなく、あの日のなんとも言えない『感情』を次の世代にセットで伝えることさえできれば…それが可能であれば…今の我々と同じく、誰もが津波が来る前に真っ先に高台に逃げるようなマインドになるはずなのに。

 

■失うことは「当たり前」なのか?

『知識としての理解』のみになってしまうのは、戦争に関しても同じことが言われています。本当の意味での戦争に対する悲しみ(を含めた複雑な感情)は次世代には『感情』ではなく『知識』として論理的に伝わり記憶されます。だから、世界規模の戦争は同年代に連続せずに、世代が替わってから新たに発生するのだと。

今、人工知能にはこの『感情』の記録と引き継ぎに関しても期待される部分があります。

当たり前ですが人間は死にます。そしてその人が長い時間をかけて取得した技術や知識、経験の多くは失われてしまうのです。

本当にもったいないことだと思いません?

例えば誰かが死ぬほど勉強して英語を身につけたって、亡くなったらほとんどの情報は失われてしまうのです。そして、また別の誰かが必死になって、同じ勉強を同じように繰り返し、同じように身につけ、同じように失うのです。せっかく誰かがやってくれたんですから、別に次の人は同じをことをやらなくたっていいじゃないですか。

人間が持っている知識や経験、そして感情の多くは暗黙知としてその人間の中にだけ残っています。これらが失われることを「当たり前」と思う人もいれば、「もったいない」と思う人もいます。後者の人たちは人工知能にその方面の活躍を期待しているというわけです。

 

■人工知能ならなんとかできる?

我々が現在見聞きしている『人工知能』というものは、特定の作業用(例えば将棋や画像診断など)に専用に作られたもので、人間的な知能をもったものではありません。ですから、これらは「本当の人工知能ではない」という専門家もいます。

知能や感情といったレベルのもが期待さえているものは『汎用人工知能』と呼ばれ、普通の人工知能とはまったく別物です。まだ存在もしていません。『汎用人工知能』はよりSF的なもので、映画や漫画に出てくるようなものをイメージしてもらってよいかと思います。知能と感情もあって、本当に人間のような考え方もできる持ったロボット。まるで夢見たいな話ですが、それが汎用人工知能です。そして一般の人がイメージする人工知能って実はこっちなんですよね。

ここで汎用人工知能を知るためにのおすすめの本を紹介しておきます。

コンピューターで「脳」がつくれるか

五木田 和也
技術評論社

この汎用人工知能の分野が今後どうなるかはわかりません。

ただ、汎用人工知能が存在する世界になれば、その時感じたリアルな『感情』もそのまま記録できるようになるはずです。

もちろんコンピュータ以上に、脳科学の進歩が絶対に必要になってくるとは思いますが、人間の脳をお手本として人工知能的な考え方を紹介しているこの方の本を読むと少し未来が楽しみになってきますし、そんな未来を見るために長生きもしたくなってきます。

いつの日か『知識』だけでなく『感情』も私たちの子孫に伝えられるようになっていますように。

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